next up previous
Next: 5.4.8 支持療法 Up: 5.4 治療 Previous: 5.4.6 分化誘導療法

5.4.7 造血幹細胞移植療法

造血幹細胞移植療法とは、致死量の抗がん剤を投与した り全身放射線照射を行うことにより白血病細胞を殺した後に、強力治療によって回復しな くなる骨髄中の造血細胞を、他人の骨髄を移植することにより、血球を回復させる治療法 です。必要なのは骨髄中にあって血液細胞をつくる基になる造血幹細胞です。最近、この 造血幹細胞が末梢血中や臍帯血の中にもあり、これらを用いる末梢血幹細胞移植や臍帯血 幹細胞移植も骨髄移植と同じ程度に有効であることが判りましたので、最近では造血幹細 胞移植療法と一括されるようになりました。造血幹細胞移植療法により薬物療法ではほと んど治癒の期待できない難反応例や再発症例においても治癒が期待できます。大量のサイ クロフォスファミドやブサルファンなどの抗がん薬や全身放射線照射を始めとする移植前 の前治療が、現存の抗白血病治療法の中で最も強力であるという事実に加え、移植片対白 血病効果すなわち移植したドナーのリンパ球が白血病細胞を免疫学的に攻撃するという現 象があるためです。

単純に考えると大変結構な治療法なのですが、HLA適合ドナー(家族ないしは非血縁者 )がいることが第一条件です。また、移植前の治療が強力であることより、これに耐える ことができる全身状態が良好であり、年齢が50才以下の患者さんのみに施行できるという 制限があります。HLAとはヒトの組織適合抗原のことで、両親から一つづつもらう組織型 は4組の組み合わせが出来ますが、兄弟・姉妹間で適合する確率は4分の1です。子供の すくない日本人ではなかなか適合ドナーを見つけることができません。そのため、骨髄バ ンクや臍帯血バンクが作られて、非血縁者ドナーによる移植も行われます。 HLAは最も主要な組織適合抗原型ですが、赤血球にAB型以外の血液型が沢山あるよう に、組織適合抗原型も幾つかあり、それらの全てが合う訳ではありませんので、組織適合 抗原型の違いによる免疫病が出てきます。すなわち、ドナーのリンパ球が患者組織を免疫 学的に攻撃する移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)です。非血縁者ドナ ー間では、その差がより大きいため、GVHDがより強く出ます。

重症型のGVHDは致死的となりますので、この医原病は造血幹細胞移植療法において、解 決しなければならない最も重大な問題です。この免疫反応をシクロスポリンやタクロリム スなどの免疫抑制薬で抑えることはできますが、これらの薬は正常の免疫反応も抑制しま すので、今度は免疫不全症が現われて、間質性肺炎などの合併症が多くなったり、移 植片対白血病効果も抑えられるために再発が起こりやすくなりますので、なかなか対応の 難しい合併症です。

特に、非血縁者ドナー移植では、GVHDの発生頻度も重症度も高くなり、GVHDで亡くな る患者さんもかなりの割合で出現します。最近では、HLAを単に血清学的に検査するだけではなく、DNAも調べることができるようになりました。DNAタイプも完全一致している場合のGVHDの発生頻度は家族ドナーと同じ程度になりますので、より安全に施行できます。臍帯血幹細胞移植の場合は、例え非血縁者 ドナーでも、このGVHDが軽症であると言われていますが、臍帯血中の造血幹細胞数が少ないため子供でしか行えません。家族間移植でも、長期的に見ると 、移植関連合併症により約30%が死亡し、また白血病再発も約20%にみられます。ただし 、移植直後の移植関連死は、最近の治療の進歩により大幅に減っており、移植そのものは かなり安全に行われるようになりました。

薬物療法の成績が向上してきたため、初回の寛解期から造血幹細胞移植療法、特に、非 血縁者ドナー移植を行うか否かは議論のあるところです。欧米での大規模な前方向比較研 究やJapan Adult Leukemia Study Group(JALSG)の前方向研究の結果は、成人の急性骨髄 性白血病と急性リンパ性白血病では造血幹細胞移植療法が明らかに良いというエビデンス (証拠)はあまりありません。移植できた患者さんの成績だけをみると良く見えるのですが、移植する前に再発するとか、たとえドナーがいても移植療法に耐えられないような全身状態にある患者さんもまとめて解析しますと、化学療法の成績とそれほど違わないという成績なのです。逆にみれば、早期再発した患者さんや全身状態の悪い患者さんを除外して解析すれば、化学療法の成績も良く見えることになるのです。したがって、ハッキリした予後不良因子を持った白血病の 場合は別として、初回の寛解期にGVHDが強く出る非血縁者ドナー移植は行わない方がよい と思われます。完全寛解になった時に、自分の骨髄や末梢血中の幹細胞を保存しておき、 強力治療後にこれを移植する自家造血幹細胞移植療法に関しても、明らかに良いというエ ビデンスはありません。

急性前骨髄球性白血病や小児急性リンパ性白血病では造血幹細胞移植は再発例にしか行 ないませんが、急性骨髄性白血病および成人急性リンパ性白血病では図3のようなフロー チャートに沿って行っているのが一般的です。

図 3: 急性白血病治療のフローチャート

\includegraphics[width=16cm,clip]{fig3.eps}



愛知県がんセンター 病院長 大野竜三
小牧市民病院血液内科 市橋卓司