染色体の相互転座t(15;17)があるために新WHO分類では独立した白血病として分類されるようになった急性前骨髄球性白血病には、レチノイン酸による分化誘導療法が用いられます。レチノイン酸単独ないしは化学療法との併用療法により、95%前後の患者さんが完全寛解となります。レチノイン酸により成熟細胞まで分化誘導された前骨髄球性白血病細胞は計画細胞死の機序により死滅し、約1ヵ月で正常血球が回復してきます。「2.白血病の原因」のところで述べましたが、t(15;17)転座によってつくられるPML/RARαという異常分子が、この白血病の原因になっており、RARαはレチノイン酸の受容体ですから、レチノイン酸はこの白血病の原因遺伝子が作る分子に働く分子標的薬です。したがって、レチノイン酸療法は、現在では分化誘導療法ではなく、分子標的療法として位置づけられるようになりました。完全寛解となった後の地固め療法は普通の急性骨髄性白血病と同じような化学療法を行います。この白血病には、維持・強化療法は不要です。もし、運悪く再発しても、新レチノイドのタミバロテンや亜砒酸がよく効きますし、これらが無効のときには、造血幹細胞移植を行なうことにより、80%以上の患者さんが治るようになりました。
レチノイン酸は活性型ビタミンAですから、他の抗白血病薬のような強い毒性もなく、そのため感染症や血小板減少による出血などの合併症や患者さんに与える苦痛も少なく、結果として医療費も少なくなるという利点もあります。筆者の一人は白血病治療の研究を初めてかれこれ40年になりますが、これまでは、治癒率の上がる治療法や新薬は必ず医療費も高くなるという図式でしたが、このレチノイン酸療法は極めて例外的に医療費が安くなる治療法です。今のところ、レチノイン酸が効くのは、本白血病だけですが、医学的にも医療経済面からも、是非とも分子標的療法を研究し開発して行く必要があります。